■
比較文化実験室
テ・ジャポネ・オ・レ
■間違ったジャポニズムを再現?
〜海外における日本文化の受容形態〜
フランスという国では19世紀にジャポニズムが流行って以来、様々な形で日本文化が取り上げられ、高く評価されてきました。フランス人に知っている日本人の名前を挙げてもらうと意外にマイナーな芸術家を知っていたりします。日本かぶれのご婦人などには寝室に三畳ほどの畳の御寝所を作り、窓は障子、オブジェは行燈という熱心な方もいらっしゃるようです。私たち日本人が気恥ずかしくなるほど、トレ・ビアンだと誉めてくれたりします。いや、その誉め方たるやまことに恥ずかしい限りです(^^;)。
しかし、これはお互い様でもあるのですが、紹介のされ方に偏りがあるのか、自分たち風にアレンジしてしまうからなのか、日本人にしてみれば「それは間違いだろう(苦笑)」という取り入れられ方も見受けられます。こうした「海外における日本文化の受容形態」というテーマを研究してみるもの一興でしょう。
今回はその第一歩として、フランスで飲まれているというテ・ジャポネ・オ・レ(=ミルク・ジャパニーズ・ティー ホントにそう言うかは知らない(^^;) )を再現することで日本文化を受け入れようとするフランス人の気持ちに少しでも近づく努力をしてみました。さて、何か得られるでしょうか?
■実験
●小屋(以下●)
:
さて、そんな訳で今回はゲストとしてうちの奥さん、しまちゃんをお迎えしま した。
●しまちゃん(以下●)
:
初めまして。しまちゃんです。毎度旦那のけったいな趣味につきあわされてお ります(^^;)。
●
:
すまんのぉ。
●
:
ところで、上海に行ったときにサントリーの烏龍茶に「低糖タイプ」があった のは驚いたよね。
●
:
発酵茶の紅茶に砂糖を入れるんだから半発酵茶の烏龍茶に砂糖を入れてもおか しくはないんだろうけど、烏龍茶はそのまま飲むという文化に慣れている我々に はちょっと驚きだね。
●
:
イギリスの紅茶は砂糖を入れることもあるし、インドやロシアのチャイ、マレ ーシアのテなんかは言わなくても最初から砂糖が入って出てくるわけで、もしか してお茶に砂糖を入れないで飲むのって中国・韓国・日本みたいな東アジアぐら い?ヨーロッパでは日本の緑茶ってどうやって飲まれてるのかな?まさか、砂糖 入れて飲んでるとか?
●
:
ところがどっこい、フランスでは砂糖にミルクも入れて飲んだりするらしいん だな。
●
:
それ、マジ?
●
:
マジ。前にテレビかなんかで見たよ。
●
:
うげ〜(--;)。
●
:
フランスではさ、結構前からジャポニズムと言って日本文化を学ぼう!という 運動が盛んな訳ですよ。だから結構日本びいきの人も多いんだって。
●
:
ふーん。
●
:
そんな訳で今回は「ジャポニズムを学んでみようとするフランス人の気持ちを 理解するために、逆に我々日本人があえてヨーロッパ的作法で日本茶を飲んでみ よう!」という企画です。でも、ジャポニズムを学んでみようとしてる人だから なんか勘違いしてるのね。土もののカップとかに緑茶入れてさ。
●
:
砂糖は漆器の器に入れて木のスプーンを添えるとか?
●
:
そうそう。
●
:
で、用意する訳ね。
●
:
うん(^^;)。
これがテ・ジャポネ・オ・レだ!!
●
:
こんな感じかしらん?
●
:
いいねぇ。とっても間違ってるねぇ。すごく勘違いしてて日本にかぶれちゃっ てる感じがするね。
●
:
…テイスティングはお先にどうぞ。
●
:
…なんか毒味みたいだな。(すする)
●
:
どう?
●
:
ま、今は抹茶ミルクとかあるし、宇治金時にコンデンスミルクかけて食べるか らまったくの未知の味ではないって感じかな。
●
:
(すする)うーん、なんか、抹茶ようかんとか抹茶ういろうとかみたいな系統 の味がする。なんか「まったり」というか「もた〜」というか、どこか鈍重な感 じ。
●
:
なんかミルクの味しかせんな。
●
:
紅茶はもともとが味や香りが鮮烈だから、ミルクを入れて飲むとまろやかにな っていい感じだけど、緑茶はすっきりした清涼感が売りだからミルクを入れると 良さが打ち消されちゃっていまひとつな感じ。
●
:
なるほど。確かに緑茶の売りは清涼感だよな。
●
:
こいつは一度でいいかな(^^;)。
●
:
やっぱりこれ、間違ってるよ(^^;)。日本人だからそのまま飲むのに慣れてる から受け入れられない、というよりはむしろ、売りを殺しちゃってるという意味 でこの飲み方は邪道だな。
●
:
そんなことは最初から…。
●
:
いや、邪道なのはわかってたけど、なぜ邪道かという理由がわかった(^^;)。 今度こんな飲み方してるフランス人がいたら日本人としてたしなめなけりゃいか んな。
●
:
日本人として正しい日本文化を伝えなければって?
●
:
そう。ま、でも飲み方の部分は彼らの文化な訳だから、こういうのがいいんじ ゃないかな。もし家にフランス人が来たら、まずそのまま出して我々はそれを飲 むと。で、そのフランス人が「ミルクと砂糖をくれないか」と言ってきたら、「 日本では普通ミルクと砂糖は入れませんが、そちらの方がお好みですか?」と聞 いてから出してやると。日本人である我々にとってハンバーグにおろしポン酢が うまいように、緑茶にミルク・砂糖は彼らにとってうまいのかもしれない。だか らあくまで選択の主体は彼らでいいんじゃないかな。
●
:
とりあえず、日本のものを受け入れようとしてくれているだけでもうれしいよ ね。
●
:
そういう訳です。
■実験を通して
ある文化が異文化を受け入れる過程ではもとの文化も少なからず変容してしまいます。それは受け入れる素地、プラットフォームが違うのですから当然としてあきらめるほかないのかもしれません。ただ、文化はそれ自体変容するものでもあります。変容しない文化はもはや文献の上だけで残る死んでしまった文化です。ですから変容して受け入れられた文化も、「変容する」という文化の本質に照らせばそれはそれで正しいと言えるでしょう。だから「間違ったジャポニズム」というのは言葉のあやで、ひとつの受容形態として正しいのです。要はステレオタイプはステレオタイプとして苦笑しながら飲み込んで、我々母文化の担い手がこれからいかに伝えていくかなのではないでしょうか。だって、遠い異国の地で「これは日本から伝わったんだ」と聞いたらやっぱり嬉しいじゃないですか(^^;) 。
逆もまた真です。
「インド人はカレーばかり食べているらしい」というステレオタイプがあったとします。
それはその通りですが、日本のカレーライスとはあまり似ていません。そもそもカレーという料理はないといいます。じゃぁインドのカレーってなんなんだ?と思ったら、実際にスパイスで買ってきて好みや体調で配合を変えつつインド式で作ってみるとより深くインドのカレーを知ることができるでしょう。
我々もステレオタイプはそれとして楽しみつつも、決してそこにとどまることなく、その後ろにある文化の深みもぬかりなく感じとっておく、そういう姿勢でありたいものです。
まず行動ありき。ばかみたいな実験でも(^^;)やってみる価値はあると思うのですが、いかがなものでしょう?
Copyright © 1997-2008 Utari Creates Tsukuba Institute, All Rights Reserved.